「マンガを描いてみようと思い立った」
唐突なラジエルの言葉に、リリスが引き攣った表情で呟いた。
「うっわー。嫌な予感しか浮かばねー……」
ここは、天道刹那たちが普段の生活に利用している宿直室。
今も空見が作った朝食を食べ終えたところであった。
「……描くのはいいけどさ、ラジエルってマンガの描き方分かるの?」
空見の言葉に、ラジエルは自信満々に頷いた。
「大丈夫。図書館で『マンガの描き方』という本を発見した。ダンタリオンも手伝ってくれるそうだし」
「――それで。何を描くのよ?」
リリスの問い掛けに、ラジエルはぽっと頬を赤らめて刹那を見る。
刹那はどこか苦さを滲ませた声で呟いた。
「何故だろう。リリスの言う通り、嫌な予感がしてならない……」
こう、ナマモノは取り扱い的に要注意という感じで。
「大丈夫。描写は丁寧に描くつもりだから」
何の描写か、という質問を何故だか刹那は避けたくて仕方なかった。
「マンガのジャンルは?」
「純愛」
「……ほう。純愛」
翌日。ダンタリオンが、服を血で染めたラジエルを運んできた。
「刹那がアダムの手で半裸にされるシーンで、限界が訪れたらしい。こう、鼻からぶしゃっと」
刹那は迷わず、ラジエルが描こうとしていたマンガを押し入れの天井裏に封印した。