【雪】
「父さん、どう? 上手くできたと思うんだけど――」
雪はレッドペッパーとタバスコで真っ赤に染まったチキンソテーを見つめていた。
チキンソテー・レッドウッドスタイル。平たく言うと、激辛のチキンソテーだった。
別にリザードマンの味覚が他の種族と異なる訳ではなく――単に、レッドウッド一族がそういう家柄なのだ、とガラは説明していた。
【ガラ】
「謙遜しないでいい。しばらく他のチキンソテーが食べられないくらいには満足だ」
少々回りくどい褒め言葉だったが、雪は笑顔でそれを受け入れた。
香ばしいチキンを嚥下し、ガラがふと尋ねた。
【ガラ】
「それで?」
【雪】
「仕事はどうだって事?」
雪が念の為に問いかけると、ガラはこくりと頷きながら水を呷った。
【雪】
「順調よ。ヴァレリア様は……世界で一番、私と相性のいい主だと思う」
嬉しそうに呟く。
【雪】
「……本当、あの人が私の主で良かった」
――含むような言い方。時折、雪は彼女のことを語るときに嬉しさの中に秘める影があることに気付いていた。
気付いていたが、何も言わないことにしていた――少なくとも、雪が自分で告白したいと思うまでは。
【雪】
「父さん。まだ、私の仕事には反対?」
【ガラ】
「……命がかかった仕事だからな。社会的に認められた仕事に貴賎はなくとも、親としては勘弁願いたい、というところだ」
【雪】
「……だって、私も誰かを守りたかったから」
【ガラ】
「そうだね。君の動機を考えると、君が選んだ道はたぶん間違っていないと思う」
【雪】
「……うん」
【ガラ】
「けれど、正しい訳でもない。執事は主を守るものだ、主の災厄、主の怨敵を打ち払う者だ。……君が手を汚すことを、ぼくは父親として許せないんだと思う」
【雪】
「……でも」
【ガラ】
「でももなにもないんだ。こればかりはね」
【雪】
「……でも! 私は……」