【セルマ】
「お爺様……」
傍らに寄り添い、そっとお爺様の手を握る。どうやら、今の自分にはそれくらいしかできないらしい。
この老人を愛していたかどうかと問われれば――否だと思う。彼はいつでも厳しく、素っ気無く、自分のことなどまるで見てくれていなかった。
でも、決して憎んでなどいなかった。
ただ悲しかっただけ。
だから、彼の手を握った。
【セルマ】
「大丈夫です、もう少ししたらリックがきっと、」
お爺様が言葉を遮った。
【ランド】
「……セルマ。お前に伝えておくべき事がある」
【セルマ】
「は……い?」
【ランド】
「――私は死ぬ」
その言葉が一瞬理解できなかった。
【セルマ】
「お爺様、そんな事仰らずに――」
彼はしっかりと私の目を見据えて、もう一度告げた。
【ランド】
「私は死ぬよ、セルマ。この傷があってもなくても、間もなく死ぬはずだったのだ。少し早まっただけだ」
【セルマ】
「お爺様は気弱になられているだけですわ」
私は、心の焦燥を覆い隠すように素っ気無く告げた。
苦笑いを浮かべる。何もかもを諦めたような、それでいてどこか晴れ晴れとした顔。
【ランド】
「手厳しいなセルマ。だが、今の内に伝えるべきことを伝えておこう。私が死んでのちのことだ」
【ランド】
「――言うまでもなく、後継者はお前かシドのどちらかだ。もし、シドがミスティック・ワンとなったならば――お前も十貴竜と共によく彼を補佐してくれ」
【ランド】
「もし、セルマ。お前がミスティック・ワンとなったのならば、シドや十貴竜に助力を請い、ミスティック・ワンとしての努めをよく果たせ」
【ランド】
「……お前たちは戦わなければならない。聖導評議会との戦いというだけではない、平和のための戦いだ。万民の平和のために我らは戦い、そして死ぬ」
【ランド】
「シドにもそう、伝えてやってくれ。平和のための戦いを。平和のための戦いを、と。……戦争など、起こしては……ならん、と」
【セルマ】
「……」
こんな状況下でも、彼は“末裔たる者(ミスティック・ワン)”としての勤めを果たそうとしていた。
苦痛があるだろうに。
絶望があるだろうに。