お嬢様は本を読みつつ、紅茶を優雅な仕草で口にした。
【セルマ】
「……」
沈黙。
特に気まずくはなく、苦にもならない。執事は無言で主の傍に立つことが多い、
従って立っているだけで気まずい雰囲気をかもし出すようでは話にならない。
【セルマ】
「……そう言えば、キャロルがさっき遊びに来てね」
くすり、と思い出したようにお嬢様が笑った。
【リック】
「遊びに来て、とはまた……キャロルらしい、と言えばキャロルらしいですが」
【セルマ】
「結婚の話を出したら、大笑いしたあと急に真顔になってね。……ウェディングドレス、手配いたしましょうか? って」
気が早いにも程がある。
【セルマ】
「あら、そうかしら? 私も遅かれ早かれ、そういうドレスを着ることになるかと思うのだけど」
【リック】
「確かにそうですが、花婿になるべき御方が想像つきませんので――」
私が素直にそう述べると、お嬢様は笑った。
【セルマ】
「そうね、確かに。結婚式……ねえ」
不意にお嬢様の表情が翳った。
【リック】
「いかがなさいました?」
【セルマ】
「ん。想像したのよ、少し。……ヴァージンロードを、私は誰と歩くのだろうって」
【リック】
「それは――ランド様ではないのでしょうか?」
【セルマ】
「あの方は、お忙しいでしょう? おじ様も駄目ね。これから先、もっと忙しくなるだろう人だから」
お嬢様の投げやりな笑み。見るたびに、胸が痛み、疼く。
【リック】
「それでは、差し出がましいのですが私が共に歩きましょう。……さすがに父親には見られないでしょうが、兄ならば無理がないかと」
思わず、私はそう発言していた。
【セルマ】
「……」
【リック】
「いかがです?」
【セルマ】
「――そうね。その時はお願いするわ」
投げやりな笑みが消えた。
私には、それだけで充分な報酬だった。もしお嬢様が望むなら、喜んでヴァージンロードを共に歩こう。